日本政策金融公庫の不動産投資はフルローン不可?現実と活用法

日本政策金融公庫の不動産投資はフルローン不可?現実と活用法

日本政策金融公庫を利用した不動産投資でフルローンを組みたいと考えている方は非常に多いですね。

特にアパートローンなどの融資期間が最長20年という制約がある中で、自己資金を抑えて始めたいと願うのは当然のことかと思います。

しかし、実際の審査ではどのような基準で見られているのか、本当に頭金なしで融資を受けられるのか、不安に感じている方もいるのではないでしょうか。

この記事では、公庫の融資スタンスや現実的な自己資金の考え方について、私の経験も交えながら解説していきます。

この記事のポイント

  • 日本政策金融公庫でフルローンを狙うのが難しい理由がわかります
  • 審査を有利に進めるための自己資金の目安について理解できます
  • 金利や属性による優遇など公庫ならではのメリットを知ることができます
  • 堅実な賃貸経営を実現するための公庫の活用法が見えてきます

 

日本政策金融公庫の不動産投資でフルローンは難しい現実

まず最初に、みなさんが一番気になっている結論からお話ししてしまいますね。

日本政策金融公庫で、物件価格の全額を融資してもらう「フルローン」を組むことは、現状かなりハードルが高いと言わざるを得ません。

もちろん「絶対に不可能」とは言い切れませんが、民間のアパートローン以上にシビアな側面があるのも事実です。

なぜ公庫ではフルローンが出にくいのか、その背景にある「融資スタンス」の違いを理解しておかないと、申し込みの段階でつまづいてしまうかもしれません。

 

公庫融資で自己資金なしが厳しい理由と審査基準

公庫融資で自己資金なしが厳しい理由と審査基準

日本政策金融公庫は、あくまでも「事業」を支援するための政府系金融機関です。

ここがすごく重要なポイントなんですが、公庫は私たちのことを「投資家」ではなく「不動産賃貸業を営む事業者」として見ています。

事業者である以上、事業のリスクを一定程度自分で負う覚悟、つまり「自己資金の投入」が求められるのが基本的な考え方なんですね。

一般的に、民間の銀行、特にスルガ銀行や一部の地銀・信金などが過去にフルローンを積極的に出していた時期もありましたが、公庫のスタンスはずっと堅実です。

審査基準としても、物件の担保価値(積算評価)を厳しく見る傾向があります。

公庫が重視するポイント

物件の収益性ももちろん大事ですが、「事業主がどれだけ身銭を切ってリスクを負っているか」という本気度も見られています。

そのため、自己資金なしで申し込みに行くと、「事業計画が甘い」「リスク管理ができていない」と判断されてしまう可能性が高いのです。

感覚としては、物件価格の1割〜3割程度の自己資金を用意しておくのが、融資の土台に乗るためのラインだと思っておいた方が良いでしょう。

公庫に限らず、不動産投資を安全にスタートさせるために「最低限用意すべき自己資金」の基準と、資金不足でスタートした場合のリスクについて、以下の記事でシミュレーションしています。

 

創業融資の活用でも頭金が必要になるケースの傾向

「でも、創業融資制度を使えば、自己資金の要件が緩くなるんじゃないの?」

そう思う方もいるかもしれません。

確かに、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」などは、無担保・無保証人で借りられる非常に強力な制度です。

制度上は「創業資金総額の10分の1以上の自己資金」があれば申し込めると書かれています。

しかし、これはあくまで「申し込みの最低条件」であって、「1割あれば審査に通る」という意味ではありません。

特に不動産賃貸業は、他のビジネス(飲食やITなど)と比べて、初期投資額が大きく、回収に時間がかかるビジネスモデルです。

  • 実際の傾向
    不動産賃貸業の場合、創業融資であっても物件価格の2割〜3割程度の頭金を求められるケースが多いです。
  • フルローンの難易度
    創業時だからといってフルローンが出やすくなるわけではなく、むしろ実績がない分、手元資金の厚さが信用補完として重要視されます。

「フルローンでレバレッジを効かせまくる!」という攻めの投資スタイルよりも、「ある程度自己資金を入れて、安全に経営をスタートさせる」という堅実な姿勢の方が、公庫の担当者には好印象を与えやすいですね。

公庫融資の「自己資金」にお悩みの方へ

「公庫を使いたいけれど、今の貯金だけでは頭金が足りない」

そう悩む必要はありません。いきなり不動産を買うのではなく、まずは金融投資で頭金を作り、その信用力で不動産を買い進める「順序」が重要です。

私が実践し、公庫の融資を引き出す土台ともなった「資産形成のゴールへの道筋」を以下で公開しています。

頭金を作る「ハイブリッド投資戦略」を見る

 

投資ではなく賃貸事業としての事業計画書が必須

投資ではなく賃貸事業としての事業計画書が必須

公庫への融資申し込みで絶対にやってはいけないのが、「不動産投資」という言葉を前面に出してしまうことです。

先ほどもお伝えした通り、公庫は「事業」に融資をします。

「副業で不労所得が欲しい」「将来の年金代わりに」といった動機は、個人の資産形成(投資)とみなされ、融資対象外になってしまうリスクがあります。

そのため、提出する「創業計画書」や「事業計画書」の内容は、徹底して「賃貸事業」としての視点で書く必要があります。

NGな表現(投資目線)OKな表現(事業目線)
利回りが高いので儲かりそう地域に良質な住環境を提供し、安定収益を確保する
不労所得を得たい賃貸経営を通じて地域社会に貢献する
値上がり益を狙いたい長期的に安定した事業継続を目指す

このように、あくまでビジネスとしてどう運営していくか、空室リスクにどう対応するか、リフォーム計画はどうするかといった具体的な「経営計画」を練り上げることが、フルローン云々以前に、融資を引くための大前提となります。

 

日本政策金融公庫のアパートローンは最長20年まで

日本政策金融公庫のアパートローンは最長20年まで

ここで、キャッシュフロー(手残りのお金)に関わる非常に重要なポイントについて触れておきます。

日本政策金融公庫で不動産を購入する場合、返済期間(融資期間)は基本的に短いです。

民間のアパートローンであれば、法定耐用年数を超えて30年や35年といった長期融資が組めることもありますが、公庫の場合はどんなに頑張っても最長20年、多くの場合で10年〜15年程度に設定されることが一般的です。

ここに注意

返済期間が短いとどうなる?

毎月の返済額が大きくなります。フルローンに近い金額を借りて期間15年などで組んでしまうと、毎月の家賃収入のほとんどが返済に消え、手残りがマイナス(持ち出し)になる可能性が非常に高くなります。

もし奇跡的にフルローンが組めたとしても、返済期間が短いせいで毎月赤字になってしまっては、事業として破綻してしまいますよね。

「20年」という期間の壁があるからこそ、ある程度の自己資金を入れて借入額を減らし、月々の返済額を抑えることが、公庫を利用する上での「必須戦略」となるわけです。

 

審査落ちを防ぐために確認すべき信用情報の重要性

審査落ちを防ぐために確認すべき信用情報の重要性

最後に、意外と見落としがちなのが「個人の信用情報(CICなど)」と「税金の支払い状況」です。

日本政策金融公庫は政府系金融機関ですから、特に税金や公共料金の滞納には非常に厳しいです。

住民税、所得税、固定資産税などはもちろん、国民健康保険料や年金に至るまで、未納や延滞があると、それだけで審査落ちの決定的な要因になります。

チェックポイント

  • 通帳の履歴
    公共料金(電気・ガス・水道)や家賃の引き落としが期日通りに行われているか、直近半年〜1年分の通帳を見られます。
  • クレジットカードの支払い
    いわゆる「ブラックリスト」に載っている状態だと、公庫であっても融資は絶望的です。

自己資金を用意するのも大切ですが、まずは身辺整理と言いますか、支払うべきものを期日通りに支払っている実績を作っておくことが、融資への第一歩となります。

 

フルローン不可でも日本政策金融公庫で不動産投資すべき理由

ここまで「フルローンは厳しい」「期間が短い」といった、少しネガティブな現実をお伝えしてきました。

「じゃあ、公庫なんて使えないじゃん」と思った方もいるかもしれません。

ですが、それでも私が日本政策金融公庫をおすすめするのは、それを補って余りある強力なメリットが存在するからです。

無理にフルローンを狙うよりも、自己資金を投じてでも公庫を活用することが、結果として「リスクを抑えた堅実な賃貸経営」への近道になります。

 

民間アパートローンと比較した低金利のメリット

民間アパートローンと比較した低金利のメリット

最大のメリットは、なんといっても金利の低さと固定金利である点です。

民間の銀行で、特に築古物件や耐用年数オーバーの物件に融資を引こうとすると、金利が3.9%や4.5%といった高金利になることが珍しくありません。

一方で日本政策金融公庫なら、基準金利でも1%台後半〜2%台前半程度で借りられることが多いです。

(参考:日本政策金融公庫「主要利率一覧表」)

金利差の威力

仮に2,000万円を借りたとして、金利4.5%と2%では、総返済額に数百万円単位の差が出ます。

しかも公庫は基本的に「固定金利」です。将来的に金利が上昇するリスクを気にせず、安心して経営計画を立てられるのは、精神的にも非常に大きなメリットと言えます。

期間が短くても金利が低ければ、元金の減るスピード(元金返済スピード)は早くなります。

結果として、10年後、15年後に完済した無借金の物件が手元に残るスピードが格段に早くなるのです。

公庫は低金利ですが審査が厳格です。一方で、年収や属性によっては地方銀行の活用も視野に入ります。例えば、広域で融資を行う滋賀銀行などの審査基準と比較してみると、ご自身の立ち位置がより明確になります。

 

女性や若者・シニアが受けられる金利優遇制度

公庫には、特定の属性の方に対して金利を優遇する制度が充実しています。

もしあなたが以下の条件に当てはまるなら、さらに有利な条件で融資を受けられる可能性があります。

  1. 女性、または35歳未満の方、55歳以上の方
    「女性、若者/シニア起業家支援資金」の対象となり、基準利率よりも低い特別利率が適用されます。
  2. UIJターンで地方で事業を始める方
    地方に移住して不動産賃貸業を始める場合なども、優遇措置を受けられるケースがあります。

民間の金融機関では、属性(年収や勤務先)が低いと金利が高くなったり門前払いされたりしますが、公庫は逆です。

女性や若者など、民間では借りにくい層を支援するのが公庫の役割でもあるため、このメリットを使わない手はありません。

 

無担保融資枠を活用したリフォーム資金の調達

物件購入費用のフルローンは難しくても、リフォーム費用として公庫を活用する方法もあります。

公庫には、担保不要で借りられる融資枠(無担保融資)があります。

例えば、物件自体は現金を貯めて安く購入し、大規模なリフォーム費用500万円だけを公庫から無担保で借りるといった使い方が可能です。

これなら、物件に抵当権がつかないので、将来的にその物件を別の銀行の共同担保に入れたり、売却したりする際もスムーズに進められます。

「物件は現金、リフォームは公庫」という組み合わせは、私たちのような小規模な大家にとって、非常に相性の良い戦略の一つです。

 

融資の流れと面談でアピールすべきポイント

実際に公庫で融資を受けるまでの流れは、ざっくり以下のようになります。

  1. 相談・申し込み
    支店の窓口やインターネットで申し込みます。
  2. 面談
    担当者と直接会って、事業計画について説明します。ここが最大の山場です。
  3. 審査・結果連絡
    面談から1〜2週間程度で結果が出ます。
  4. 融資実行
    契約手続きを経て、口座に入金されます。

特に重要なのが「面談」です。

ここでは、単に「お金を貸してください」と頼むのではなく、「この事業は確実に利益が出て、確実に返済できます」ということを論理的にプレゼンする必要があります。

アピールすべきは以下の点です。

  • 周辺の賃貸需要をしっかり調査していること(客付けの自信)
  • 空室や修繕リスクを厳しめに見積もっても収支が回る計画であること
  • 自分自身も現地に足を運び、汗をかく覚悟があること
  • 自己資金をしっかり貯めてきたという実績(計画性)

服装はスーツで、資料は整然とファイリングして持参するなど、社会人としての「誠実さ」を見せることも、担当者を味方につけるための隠れたポイントですよ。

 

日本政策金融公庫の不動産投資はフルローンより堅実性が鍵

最後にまとめとなりますが、日本政策金融公庫での不動産投資において、フルローンに固執する必要はありません。

むしろ、頭金をしっかり入れて借入額を抑え、低金利・固定金利という公庫のメリットを最大限に活かすことこそが、長期的に生き残る大家の戦略だと言えます。

フルローンで無理に規模を拡大するよりも、まずは小さくても確実に利益が出る物件を一つ作り上げること。

その実績ができれば、公庫からの信頼も積み上がり、2棟目、3棟目の融資はもっとスムーズに進むようになります。

まずは、ご自身の自己資金と相談しながら、公庫で通る現実的な事業計画を立ててみてはいかがでしょうか。

それが、不労所得への一番の近道になるはずです。

公庫融資を確実に引き出す「資産の土台」を作りませんか?

日本政策金融公庫の融資を勝ち取るために最も必要なのは、小手先のテクニックではなく「事業主としての信頼」と「確かな自己資金」です。

無理なフルローンを探し回るよりも、まずはNISAや金融投資で盤石な頭金を作り、満を持して不動産投資へ参入する。

この「急がば回れ」の戦略こそが、凡人が経済的自由を手にする最短ルートです。

不動産をゴールにする「ハイブリッド投資戦略」を読む

 

※本記事は執筆者の個人的な経験と見解に基づくものです。融資の審査基準は時期や支店、担当者によって異なります。具体的な融資可否については、必ず日本政策金融公庫の窓口や専門家にご相談ください。